2015年04月02日

歯石除去 ~ひめちゃんの1日~ part1


今回は歯石除去(歯周病治療)を受けていただいた、トイプードルの「ひめちゃん」に主役になっていただき、麻酔前からお迎えまでをドキュメンタリータッチでご紹介させていただきます!長くなってしまうので何回かにわけてお伝えできたらと思います。

まず最初に大事なことを1つ。
当院では歯石除去を全身麻酔下で行います。

みなさん、歯石のコトだけでなく、全身麻酔についても気になりませんか?ちょっと長いですがぜひ読んでみて下さい。

~麻酔をかけるまで~
全身麻酔の予定の患者さんに、すぐに麻酔をかけるわけではありません!まずは、麻酔前のカラダのチェックです。体重測定や聴診、身体検査はもちろん、当院では「血液検査」は必ず行いますし、患者さんによっては「X線検査」など他の検査も行います。ひめちゃんは血液検査と胸部中心のX線検査を、麻酔前に行いました。
37術前検査f.jpg

ちょっと脱線します。さて、なぜ検査が必要なのでしょうか?

全身麻酔では、実は何種類ものお薬を使用します。お薬というものは麻酔薬に限らず、どんなお薬でも、多かれ少なかれ身体に負担がかかります。麻酔前検査で、内蔵の機能や状態を把握しておくことが安全な麻酔のためのとても大切な作業なんですね。実際には検査結果だけでなく、手術内容、動物の年齢や性格なども考えて、1人1人に合わせた麻酔薬の量や麻酔方法を決めていきます。。

さあ、カラダの状況はバッチリ確認できました。
では、さっそく全身麻酔!!・・・、ではありません。

まずは、いわゆる全身麻酔薬の前に、痛みを抑える作用のある薬や気分をリラックスさせる薬などを、使用します(前投与といいます)。こういうお薬を事前に使っておくことが、全身麻酔薬の負担を減らしてくれますし、ワンちゃんもリラックス、手術や処置の痛みも少なくしてくれるのです。

00術前f.jpg

↑さっきまで元気いっぱいだったひめちゃん。麻酔前のお薬を使ったところ、ちょっと、ぼーっとしてきました。薬が効いてきましたね。これから全身麻酔です。がんばろうね!

ところで、左手(写真右)に管のようなものがあるのがわかりますか?これは<静脈点滴の管>です。当院では全身麻酔を受ける動物には原則、静脈点滴を行います。点滴には様々な意味がありますが、とくに全身麻酔による低血圧への対応として静脈点滴はとても重要です。また、静脈点滴の管を入れておくことで、いつでも迅速にお薬(緊急薬など)を使うことができます。麻酔中の様々なカラダの変化に対応するため、非常に重要な処置なんですね。

ここまで準備が整えば、あともう少しで全身麻酔を行うことができます。
これからお部屋を移動して準備をしましょう。

実際の全身麻酔はガス麻酔薬で維持します。そのため、まずは気管チューブという管を「のど」に入れます。
このチューブを使って、酸素とガス麻酔薬を正確に送り込み、安定した麻酔を維持するんですね。

06左側f.jpg

無事、気管チューブを入れ終わりました。

安定した麻酔が維持できています。麻酔中は、スタッフがひめちゃんの様子を随時観察します。そして生体モニターという機械も大活躍!身体の様々な情報をリアルタイムで知ることができます。
31モニターf.jpg
安全な麻酔を行うために、色々な工夫があるのです。

全身麻酔のことだけで、随分長くなってしまいました。スイマセンあせあせ(飛び散る汗)

さあ、いよいよ歯石除去・歯周病治療です。
く・・・・


※part2はこちら
http://hatorinoah-blog.seesaa.net/article/416710453.html
posted by はとりの動物病院 at 11:28| Comment(0) | 動物医療の話 | 更新情報をチェックする

2015年03月30日

猫の恐い伝染病の話 ~猫エイズウイルス感染症~

今日は、猫免疫不全ウイルス感染症(通称、猫エイズウイルス感染症)についてのお話です(以下、このブログでは<猫エイズ>と略称します)。

猫エイズは恐い病気の一つです。
今回は、その猫エイズの検査のことを正しく理解しないと、もっと恐ろしいことになってしまうというお話を、実例を元にご紹介したいと思います。

最初に猫エイズの簡単な説明です。

猫エイズは、野外で生活している猫(いわゆるノラ猫)たちの間で広く蔓延している、猫エイズウイルスによる伝染病です。感染猫とのケンカや濃厚な接触により感染します。愛猫家の方は、名前ぐらい聞いたことのある方が多いのではないのでしょうか?(ヒトのエイズとは無関係ですのでご安心ください)

猫エイズの恐さは、一度感染したら治らない(=体からウイルスを排除できない)というところにあります。感染したら最後、猫エイズウイルスにより引き起こされる様々な合併症と一生お付き合いしていくしかありません。そのため、猫エイズに関しては予防がとても重要です(この記事の最後の方でお話します)。

さて、ここから本題。
なぜ猫エイズ検査を正しく理解していないと恐ろしいことになるのでしょうか?実例を元にお話いたします。

先日、<猫エイズに感染しています>、という猫ちゃんが当院に来院されました。

この猫ちゃんのプロフィールです。
・現在5歳ぐらいの女の子の猫ちゃん
・仔猫の時に他の動物病院で猫エイズ検査を実施し猫エイズであると診断される
・猫エイズという理由で避妊手術を受けずに飼ってきた
動物病院で診断されたわけだし、飼い主さんとしても疑う余地はなかったでしょう。

しかし・・・、

実際はこの猫ちゃんは、猫エイズには感染していませんでした。

・・・ん?なんじゃそりゃ!?と思う人は鋭い、よく読んでいらっしゃいます。

ここで、一度話をまとめてみましょう。
◆猫エイズは一度感染したら治らない病気
◆今回の猫ちゃんは仔猫の時に検査して猫エイズと診断
◆5年後の今回、当院では猫エイズではないと診断


う~ん、なんだか矛盾してよくわからん。と、思ってしまいますよね。

なぜこういうことが起きたのか?これから解説を加えていきましょう。
まず最初に結論を言っちゃいます。

今回のケースは、
<仔猫のときに実施した猫エイズ検査の結果の解釈を間違えてしまった>
ということがすべての原因です。

注意すべきは、<結果が間違っていたわけではない>ということ。
陽性という結果は正しいけれど、<結果の解釈がダメだった>ということなのです。

結果の解釈がダメって?

難しくなってきてすいませんが、少し詳しく説明していきます。

一般的に、動物病院内で実施する猫エイズ検査は<猫エイズ抗体検査>というものなんですね。抗体とは簡単に言うとその病気に対する防御力のようなものです。院内ですぐに結果が出るタイプの猫エイズ検査はたいていコレです。

つまりこの検査は、<猫エイズ抗体があるかどうか>を判定しています。
言い換えると、<猫エイズウイルスがいるかどうか>は判定していません。


猫エイズ抗体があれば陽性。なければ陰性という結果が出ます。

もし、猫エイズ抗体が陽性のときには、次の3つのことを考えなくてはなりません。
①猫エイズウイルスに感染していて、カラダが抗体を作っている場合
②猫エイズウイルスのワクチンを打ったため、カラダが抗体を作っている場合
③猫エイズウイルスの抗体を、母猫からもらっている場合(移行抗体)


fivag.jpg整理すると、
①は猫エイズに感染しているケース。
②と③は猫エイズに
感染していないケースです。

つまり、②と③のケースのように、
猫エイズに感染していなくても、
猫エイズ抗体検査では陽性という
結果が出ることもあるのです。


そして、もうお分かりかと思いますが、
今回、当院でこの猫ちゃんに
猫エイズ抗体検査を実施し、
<陰性>という検査結果でした。



さて、いよいよ今回のお話も大詰めです。

これらの結果から導き出される結論は、
★仔猫の時に行った抗体検査は陽性であったがそれは移行抗体の可能性が高い
★今回の検査で抗体陰性なので、猫エイズに感染している可能性は極めて低い

ということになります。

母猫からもらった移行抗体という防御力は、長いと生後6ヶ月ぐらいまで残ることがあるとされています。ですから、仔猫の若い時期に猫エイズ抗体検査を行い、陽性という結果がでても、移行抗体による陽性反応の可能性を考慮して、しばらくたってからの再検査や、他の検査方法の提案をしなくてはなりません。これが結果の正しい解釈であり、私たち獣医師の仕事です(一般的な獣医師の間ではごく当たり前のことです)。

この猫ちゃんの飼い主さんは「この子は猫エイズなんだ・・・」と、悲しい思いをしながら、いつ合併症が出るのかと不安に思いながら、ずっとこの5年間暮らしてきたわけです。今回のケースの検査結果解釈の誤り(いわば誤診)は、その後の猫ちゃんとご家族の運命を左右しかねない、非常におそろしいことなのです。仔猫のときの一度きりの検査で、猫エイズ陽性と診断した獣医師の責任は極めて重いといえます。

この獣医師は、
猫エイズ抗体検査結果の解釈を正しく説明するのを忘れていたのでしょうか?
それとも、そもそも自分のやっている検査の意味を理解していないのでしょうか?

私たち獣医師は、日常的に様々な検査を行います。どの検査でも、やったらハイおしまい!じゃあいけません。当たり前ですが、検査結果を正しく解釈して、診断と治療、予後判定に結び付けなければ意味がありません。

少ないとは思いますが、今回のケースのように、そういうことができない獣医師がいるのが現実のようで、とても残念です。

猫ちゃんにとっても、ご家族にとっても、猫エイズでなかったということは嬉しいことのはずですが、なんだか複雑な気持ちもあるのではないでしょうか?

私たち、獣医師はプロとして、自分の仕事、発言、診断に責任を持たなくてはいけないという当たり前のことを、改めて痛感した出来事でした。

P.S.
仔猫ちゃんを譲ったり、譲られたりするときに、猫エイズなどの検査を希望される方がいらっしゃいます。6ヶ月未満の猫では移行抗体の影響で、猫エイズウイルスに感染していなくても、今回のケースのように猫エイズ抗体陽性となる可能性があります。私は仔猫さんで検査を望まれる方にはその旨をお伝えし、生後6ヶ月以降の検査を推奨しています。誤った結果の解釈は、仔猫の引渡しなどの際にトラブルの元にもなりますので、わからないことがあれば、お気軽にご相談ください。
また、猫エイズを予防するワクチンがあります。頻繁に外出する猫ちゃんでは、猫エイズをワクチンで予防することも1つの方法ですので、興味のある方はご相談いただければと思います。なお、当院では基本的なワクチンは予約なしで接種可能ですが、この猫エイズのワクチンだけは予約制とさせていただいています。興味のある方は、お気軽にご相談ください。

院長 窪田
posted by はとりの動物病院 at 20:08| Comment(0) | 動物医療の話 | 更新情報をチェックする

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